都市交通の新たな選択肢として注目を集める自走式ロープウェイ「Zippar」。その低コスト性や柔軟なルート設計には期待が集まりますが、人の生命を預かる「公共交通」として社会実装されるためには、既存の鉄軌道と同等、あるいはそれ以上の安全性の検証が不可欠です。
今回は、一技術者の視点から、特に「ロープ走行」という本質的な部分における課題を整理してみたいと思います。
公共交通に求められる「安全性の絶対条件」
まず前提として、公共交通はフェイルセーフ(何かが故障しても安全側に働く仕組み)の思想が絶対条件です。先行する「エコライド」などの新交通システムも、厳格な安全性評価を経ていますが、Zipparにおける「自走式ロープウェイ」という形態は、まだ多くの検証を必要としている段階に見えます。
現行のモノレールやロープウェイと同程度の安全性を確保するために、私たちが注視すべき3つのポイントを挙げます。
1. 2本のロープ上における「走行安定性」
Zipparの特徴である2本のロープは、1本よりも風に強いとされています。しかし、鉄道技術において最も重要な「平面性」の確保という点では課題が残ります。
- たわみの影響: ロープは荷重や温度により、数センチ〜数十センチ単位で「たわみ」が生じます。
- 同期の難しさ: 2本のロープがそれぞれ異なる挙動(風によるブレなど)をした際、その上を走る車両の走行安定性をどう担保するのか。鉄軌道のようなミリ単位の平滑性が求められる中で、ロープの動的な変化への対応は非常に高いハードルと言えます。
2. 地震時挙動への対応と脱落防止
既存のシステムと比較すると、Zipparの「構造的リスク」が見えてきます。
- 拘束力の違い: モノレールは3輪以上(走行輪・案内輪・安定輪)で上下左右の挙動をガッチリ制御しています。また、従来のロープウェイは「握索機」でロープを掴んでいます。
- 脱輪・脱落のリスク: 「ロープの上に乗っているだけ」という状態は、地震時にロープと車両が異なる周期で激しく揺れた際、接触を維持できるのかという疑問が残ります。
- 高所走行の責任: 万が一、道路上に落下するようなことがあれば、道路管理者や交通管理者、そして市民の信頼を根底から覆すことになります。新幹線ですら脱線対策に心血を注いでいる今、この挙動の解明は避けて通れません。
3. 異常時における避難安全性の確保
空中を自走するシステムにおいて、最も困難なのが「故障時の救助」です。
- 避難経路の欠如: 自動運転車両(AGT)や海外のAPMなどは、軌道脇に避難通路(歩廊)があるのが一般的です。モノレールは軌道脇に避難通路がないため、ATOなどの自動運転自体は可能なものの無人運転は(少なくとも日本国内では)困難な状況です。Zipparも同様の状況と思料されます。
- 自走不能時のリスク: ロープウェイのように「ロープから外れない保証」と「曳航できる仕組み」がセットになっていない自走式の場合、高所に取り残された乗客をどう迅速かつ安全に救助するのか。特に都市部の過密地帯では、地上への降下救助も容易ではありません。
考察:既存システムとの比較から見えること
2本のロープは確かに風には強いかもしれません。しかし、上記の課題への対応だけでなく、雨水によるロープの腐食対策や、走行による摩耗など、運用面での新たな課題も生まれます。
結局のところ、2025年末時点で実証運行されている形態が「モノレール」に近いものになっていることを見ても、本丸である「ロープ走行」の実用化にはまだ高い壁があると感じざるを得ません。
都市型ロープウェイとして実績のある「パリのロープウェイ」や「ヨコハマエアキャビン」のような既存システム、あるいは堅実な「モノレール」という選択肢がある中で、あえてこの新システムを導入するための「決定的な安全性」の証明を期待したいところです。
HAL’s Eye(まとめ)
技術は常に挑戦から生まれますが、公共交通においては「確実に安全なシステムであること」が絶対条件です。イメージパースの華やかさだけでなく、技術者が納得できる「泥臭い検証データ」の積み上げを、これからも注視していきたいと思います。
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